空から雪が羽のように降ってくる。
今年初めての雪は止むことなく降り続け、辺りの景色を銀色へと変化させた。
「ねぇ、団長にばれなかったよね?」
「大丈夫だと思いますよ。」
心配そうにアジトの方向を振り返るスピンに、にこりとドクは答えた。
同時に心の中で、気付いていたとしてもあの人は知らないふりをしますから、と付け加える。
皆でこっそりアジトを抜け出す時、ドアを閉める直前、ドロッチェがチラッと視線だけこちらへ向けるのが見えたのだ。
用事が済んで帰ったら、きっとドロッチェは何も聞かず、出て行ったことに気づかなかったように振る舞うだろう。
まるで役者だと改めて思いながら、ドクは雪の中をぴょんぴょん跳ねて進むスピンを見やった。
マフラーを幾重に巻いても変わらない寒さにガタガタ震えているドクと違って、スピンとストロンは普段通りの格好だ。
普段は感じないが、こういう時は年の差を感じてしまう。
あぁ、若さって素晴らしい。
寒さのせいで関係ないことを考えてしまっていたが、苦労してアジトを抜け出した理由を思い出し、ドクは先を歩いているスピンに届くように声を出した。
「スピン、決まりましたか?」
「ううん。ドクはどう?」
「それが、私もまだなんですよね。ストロンはどうですか?」
「まだ。」
降りしきる雪を空中で掴み取り、手のひらで水になって溶けてしまったのを悲しそうに地面に垂らすと、ストロンは答えた。
「団長にバンダナ貰った。恩、返したい。でも、思いつかない。」

ドクの眼鏡、スピンのスカーフとサングラス、ストロンのバンダナは、ドロッチェから貰ったものだ。
去年の冬、丁度こんな風に雪が降っている日に、ドロッチェは彼らを自分の部屋に呼び集めた。
いきなり何だろう、と思っていたらドロッチェは一人一人にプレゼントを手渡してくれたのだ。
盗んだものに手を加えただけど、と申し訳なさそうに渡してくれたそれは、今まで世間の外れ者として生きてきた彼らにとって、初めて貰ったプレゼントだった。

それから1年。

感謝の意味を込めてドロッチェにプレゼントを渡そうとしたのだが、何が良いか全く浮かばない。
ドクの発明品のことも考えたが、放浪生活のため予算が足りなかった。
ドロッチェにばれない様にアジトからなるべく離れていくうちに、いつのまにか商店街に入っていた。
クリスマスでいつもより賑わう人の間をすり抜けて進んでいると、急にストロンが立ち止まった。
不思議そうに辺りを見渡した後、やっと追い付いて来たドクを困ったように見下ろす。
「ドク。」
「何ですか?」
「スピン、いない。」
ため息とともに白い息が吐き出され、やがて見えなくなった。


その頃スピンは、小さな店には不釣合いなほど大きなツリーを見つめていた。
遠目から見ても目立つそれは、少しでも多く客を呼び込むためか、色鮮やかな電球がこれでもかと散りばめられ、サンタクロースやトナカイの人形、小さなプレゼントが、形良く切りそろえられた枝にところ狭しとくくり付けられている。
ぐるぐる回ってよく見ていると、一つ向こうの通りででストロンがウロウロしているのに気が付いた。
「ストローン!」
大声を出して呼ぶと、ストロンは暫くキョロキョロしていたが、ぴょんぴょん跳ねて手を振っているスピンに気付いて寄ってきた。
笑って迎えようとしたが、いつもと少し違うストロンの様子に、スピンは思わずツリーの影に隠れた。
そんなことをしても頭隠して尻隠さず状態なので意味がない。
ストロンは珍しく怒った顔をして迷うことなくスピンに近づくと、指をビッと突きつけた。
「スピン、勝手にいなくなるの良くない。」
「だって、これ見てよ。」
さらに何か言う前に、スピンはツリーをポンポンと叩いた。
つられてストロンの目線も自然にツリーへと向かう。
「すごいな…。」
先ほど怒っていたのが嘘のように、ストロンは興味深そうにツリーの周りを一周した。
その中で特に気になったのか、トナカイの人形を突付く。
上手く気を逸らせられてほっと胸をなで下ろすと、スピンもツリーの観察を再開した。
今まで装飾の派手な上しか見ていなかったので下の方もよく見てみると、何かが光ったような気がした。
電球かと思ったが、どうも違うようだ。
少し枝を掻き分けてみると、チリン、という小さな音と共に金色の小さなベルが姿を現した。
ツリーの飾りらしいが、去年か一昨年辺りに取り外すのを忘れたのか、植物のたくましい成長に負け奥に潜り込み、雨風にさらされて一部鈍く変色している。
しかし、冷たい風に吹かれて揺れる枝に合わせてチリンチリンと響く音は、どこか心地よく感じられた。
「このベル、綺麗な音だね。」
「本当だ。」
「少し錆びていますが、磨けばもっと綺麗な音になると思いますよ。」
いきなり近くで聞こえた声に2人がギョッと振り返ると、いつの間に来たのか、ドクがすぐ傍に立っていた。
頭の上に止まらせたトンボのような物体がスピンとストロンの方を向き、赤い目を光らせる。
ドクが少し前に発明したもので、探し物に特化した小型ロボットだ。
それを頭に乗せたまま、ドクは目を瞑った。
控えめに、しかし確かに存在を主張するかのように心に響くベルの音は、何もかも包み込んでくれるようだ。

『今日から私たちは家族だ。』

そう言って微笑んだドロッチェと、何となく雰囲気が似ているような気がして。

「決めた!これにしよう!!」
スピンが弾んだ声で宣言すると、ドクとストロンも大きく頷いた。


Fin.




トンボの小型ロボットは偵察用に作った「みるみーる君3号」、略してみーる3号はしおからトンボだそうです(笑)
ちなみに1号はオニヤンマ、2号は赤トンボ、開発中の4号はモンシロチョウ、という裏設定があったりするそうです♪

このつぶやき を元に作って下さったものです…!
団員たちのやり取りがすごく好きです…v団長のさりげない優しさにも心打たれましたv
盗んできたベルは、初プレゼントでもあり初盗みでもあると良い、というのには同感でした♪

アクアさんありがとうございました!