「どうしようかな〜♪」
 寒空の下、彼は銀色の目を楽しそうに輝かせていた。
 眼下に広がる景色は一面雪の白で覆われ、数日振りに姿を見せた太陽の光に反射して、彼の目のようにキラキラと輝いている。
「本当に困ったな〜♪」
 彼は全く困ったようには見えなく、むしろ何か企んでいるんじゃないのかとツッコまれそうな顔で、白の中にポツンとある赤い屋根を見下ろした。
 暫らく考えた後、おもむろに右手を前に出し、クルリと捻る。
 すると、彼の手元に1枚の紙が現れた。
 ひとりでに宙に浮き上がった紙に手をかざすと、まるで見えない手に折られているかのように形を変えていき、数秒後には飛行機になった。
「うん、これなら大丈夫か」
 鼻歌を歌いつつ出来を確かめると、彼は満足げに頷いた。
「んじゃ、レッツゴー!」
 ピッと赤い屋根を指差すと、短い距離なのにそんなにスピードを出す必要があるのかという勢いで、紙飛行機は目標へと突っ込んだ。
 あ、と間抜けな声を漏らしたが、それで紙飛行機が止まるはずもなく。

―ドガシャッシャーン

 屋根の4分の3をふっ飛ばし、目標地点へ墜落した。


ドロッチェのお菓子教室


「えぇ!!?」
 もうもうと舞い上がる土煙の中、スピンは混乱していた。
 数秒前までは「このクッキーいただきっ!」「あ〜!ずるいっち!」と和やかな(?)ティータイムを過ごしていたはずだが、
 部屋のあちこちに瓦礫が散乱し、見事なまでに面影0である。
「なななななな??」
「一体何が起こったのじゃ?」
 ドクは混乱しているスピンの言葉を引き継ぐと、どうにか瓦礫の下からはい出し、上を見上げた。
 そこには本来あるはずの天井はなく、代わりに憎たらしいほどの青空が広がっている。
 遮るものがなく、真っ直ぐに差し込んでくる陽の光が、やけに眩しい。
 それに、すきま風のレベルを超えてびゅうびゅうと吹き込んでくる風が身にしみる。
 ドクは眼鏡の下でふっと目を細めると、視線を下に戻した。
「団長とストロン、それにチューリンたちはどこじゃ?」
 今はアジトのことより、仲間の方が大事である。
 天井の惨状に気が付いて「えええ!?」とやっているスピンは無事だが、他の団員の姿が見当たらない。
 辺りを見渡していると、声に答えるかのように、瓦礫の山の一部がガラガラと崩れ始めた。
「おや?」
「こ、今度は何?」
 ドクとスピンが固唾を呑んで見つめる中、瓦礫はどんどん崩れていき、やがて僅かな隙間から赤い布と青い手が見えてきた。
「ストロン!? 大丈夫?」
 いち早く反応したスピンは慌てて駆け寄ると、瓦礫を避けるのを手伝った。
 ある程度避けた後、少し遅れて寄ってきたドクと2人がかりで引っ張り出そうとしたが、なかなか抜けない。
「お、重い…」
「ストロン、ちょっと痩せようって気はないのかい?」
「…無理。団長の料理美味しい」
「…そうじゃなぁ…」
 目の前にとても良い匂いのする料理がズラッと並べられて、
 しかも作った本人がニコニコして見ていれば、
 そりゃ我慢せずにはいられないだろう。
 それでなくても料理をめぐってバトルが発生するほどだ。
 好きなものだからと残しておこうものなら、目を放した瞬間 in the 隣の人の口 なのだから、仕方がない。
「もう1回いくよー! せぇのっ!!」
「そりゃ!!」
「…あ」
「「へ?!」」

―ゴンッ
―ガンガラガラガラッ

 ストロンは今度は勢い良く引き抜かれ、2人を盛大に巻き込んで瓦礫の山から転がり落ちた。
 その拍子に、ストロンの腕から大事そうに抱えられていたチューリンたちがこぼれ落ちる。
 キョトンとした顔のままコロコロと数メートル転がり跳ね起きると、1つの大きな塊を発見して首を傾げた。
「あれ?みんな何をしてるっち?」
「お団子みたいっち」
「楽しそうだっちー!」
「あのねぇ……あれ?」
 ちょこちょこわらわら集まって来たチューリンたちに、文句の1つや2つや3つや4つぶつけようとしたスピンだが、
 何かに気が付いて言葉を飲み込んだ。
 天と地が逆になってしまった部屋の端、まだ土煙が晴れていないその場所に、誰かがいるような気がしたのだ。
「何だろう…?」
 スピンは逆さの態勢から一挙動で起き上がると、足音を忍ばせ、慎重に近付いた。
 その後ろに、チューリンたちや、ストロンとドクも恐る恐る続く。
 残り十数歩の距離まで近付いた時、急にスピンはピタリと立ち止まった。
「いきなり止まらないで欲しいっち」
「どうしたのじゃ?」
 スピンは、後ろからの文句には一切反応せず、ある1点を凝視していた。
「…スピン?」
 息を思いっきり吸い込み、ちょっと止めて。
 はい、どーぞ。

「団長おぉぉぉっ?!!」
「「何いぃぃっ?!」」
 ドロッチェ団団長ドロッチェ、瓦礫ではなく、避けた先にあった本棚にぶつかり、落ちてきた本により気絶。
 団長なのにこれで良いんだろうか。
 ドクはドロッチェの頭に出来ているたんこぶを眺め、一瞬考えてしまった。



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