数時間後、甘い匂いが漂うキッチンルームの一角で、ドロッチェとチューリンたちはあるものを食い入るように見つめていた。
 グラニュー糖を頭から被ってしまったドロッチェからも甘い匂いがしていて、ディノが意味深な目でジッと見ていたが、
 それに気が付かないほど真剣だった。
「だんちょー!まだっちか?」
「まだだよ」
 彼らが見つめる先には、大きなオーブンがデンと置かれている。
 ところどころ色褪せ、かなり使い込まれたオーブンの中では、色々な形に分けられたクッキーの生地がゆっくりと焼けていた。
 生地が肌色から白へと変わり始め、調理室に新たに芳ばしい香りが漂ってくると、ドロッチェはヒクリと鼻を動かした。
「今だ!」
「はいっち!」
 ドロッチェが声を上げると、群がっていたチューリンたちがオーブンを開ける。
 すかさずトレーを取り出すと、焼き具合を確かめ、ドロッチェは満面の笑みを浮かべた。
「よし、これで全部完成だ。あとはラッピングだけだな」
「ねね、あげるなんてもったいないよ。全部僕達で食べちゃわない?」
 部屋に置かれたテーブルの上には、みんなで協力して作ったレアチーズケーキ、甘納豆が入ったスフレチーズケーキ、フィンガービスケット、
 そして先程焼けた型抜きクッキーが並べられていた。
 いびつな形もあったが、どれも美味しそうな匂いを発している。
 上目使いで訴えてきたスピンに、危うく「良いよ」と答えそうになったドロッチェだが、すんでのところで言葉を飲み込んだ。
「食べたいのは山々だが、そうしたら手紙を書いた人が困るだろう? すまないけど、我慢してくれ」
「うー…。団長がそう言うなら…」
 屋根を破壊して墜落し、テーブルに垂直に突き刺っていた紙飛行機。
 指で突いた途端四角い紙に戻り怪しさMAXだったが、困っていることと、プレゼントを作ってほしいということが簡潔に書かれていたのだ。
 ドロッチェはスピンを優しく宥めると、あげるために別に分けていたものを慣れた手つきで包む。
 仕上げに「Happy Birthday!!」と書かれたメッセージカードを添えて完成と思いきや、
 むぅ、と考え込んでしまった。
「出来たのは良いが…どうやって届けよう?」
 何も考えていなかったんですか。
 誰もが心の中で突っ込むと、知恵を出しあった。
 カービィに頼むのは途中で食べられる可能性100%なので即却下。
 ドロッチェが直接届けるのは迷子になるかもしれないので却下。
 ディノが届けてやると言ったが、ドロッチェ以外の信頼がなさすぎるので却下。
 あきらめムードが漂い始めた時、黙っていたストロンが口を開いた。
「…カービィにケーキを送ったのは…?」
「おぉ!それなら大丈夫じゃ!」
 ドクは自らの研究室に駆け込み、ごちゃごちゃしている部屋の中を数十分探し回ると、
 一見ストローのような物を持って出てきた。
「そうか!ありがとう!」
 ドロッチェはぱっと目を輝かせてそれを受け取ると、口に添えてそっと息を吹き出した。
 すると、透明な膜が丁寧にラッピングされたお菓子を包み込み、窓から外へふわふわと移動し始める。
「無事にpickに届くかな?」
「わしの発明品じゃから、絶対大丈夫じゃよ」
 心配そうに目で追うスピンに対し、ドクは胸を張って答えた。
 何回も使っているものだから、今回もきっと届くだろう。
 ドロッチェは、空高く舞い上がったシャボン玉を期待を込めて見送ると、お気に入りの茶缶を手に取った。
「さて、ティータイムの続きをしようか!!」
 ドロッチェの合図に、団員たちは歓喜の声を上げた。

 一陣の風と共に、漆黒のマントがシャボン玉を覆って消えたことは、誰も気が付かなかった。


Fin.


おまけ

「物凄い音がしたと思ったら、貴様かリアトリス」
「やだな〜、僕が屋根を紙飛行機で破壊出来る訳ないじゃない。自然現象だよ」
「金髪銀目羽もないのに宙に浮いている奴が何を言うか。どうするんだ、あれ」
「管理人が何とかしてくれるでしょ。それよりライファ、今から僕が言うことに『はい』か『Yes』で答えてね」
「…そのセリフ、どこかで聞いたことがあるんだが…」
「耳を塞いでも無駄だよ。あの子たちが作ったプレゼントを、pickに届けてね」
「嫌―」
「『はい』か『Yes』で答えてね(にっこり)」
「………」
「『はい』か『Yes』で」
「はいはい! 行けば良いんだろ!?」
「そうこなくっちゃ! ライファなら快く受けてくれると信じていたよ」
「嘘を付け嘘を」
「管理人の依頼だから、一応顔を出していってね」
「へいへい」
「僕たちは本来干渉出来ないから、あの子たちにばれちゃダメだよ?」
「分かりましたー(棒読み)」
「じゃ、いってらっしやーい!(満面の笑み)」
「……(溜息しか出ない)」





誕生日祝いにアクアさんから頂いたものです!
うちの設定を活かして下さりました…!ディノは本編終了後残留してしまった闇団長のことです。
途中に登場したライファさん・リアトリスさんはアクアさん宅のオリキャラです。

団長可愛すぎる…っ!v要所要所でそれぞれの立場、やり取りがツボつきまくりで思わずニヤリとしてしまいますv
アクアさんありがとうございました!